シチズンのアーカイブにある6000点以上の時計のなかから選ばれ、12の異なるカテゴリーに分けられた100本の時計を通じてその歴史を振り返るものである。展示会は日本での開催を皮切りに、その後ニューヨークで小規模なプライベートビューイングが行われ、次はヨーロッパへと移動する予定となっている。
イベントに参加した際、私はシチズンの歴史のなかでも特に象徴的なモデルであるエコ?ドライブの“エコジラ”や“フグ”ダイバー、アクアランドなどの写真をいくつか撮るつもりでいたが、私の個人的なシチズン コレクションが非常に狭い範囲のものであることに気づかされた。この展示会は私にとって衝撃的で、魅力的なデザインと信じられないほど優れた技術からなるウォッチメイキングの世界に私は目を開かれる思いがした。この展示会はこれまで訪れたなかでも特に興味深いものであったが、一般公開されなかったのが残念でならない。この点については、インタビューのなかでのちほど詳しく述べるつもりだ。
シチズンがウォッチメイキングにおいて確かな実績を有していることは知っていた。現在では多くの企業がシチズンやその系列ブランドであるミヨタとコラボレーションを行い、これまでにない時計を生み出している。しかし私は、シチズンの過去のカタログを深く掘り下げたことはなかった。展示会では各時計について多くのオリジナルスケッチも展示されていた。このストーリーは展示会で行ったインタビューを中心に展開しているが、そのなかで見た時計もいくつか紹介したいと思う。
この巡回展のなかで、シチズンの成功において重要な役割を果たしてきたふたりに短時間ながら話をうかがう機会を得た。世界的に、そして特に米国市場におけるシチズンの成功に大きく貢献している人物たちである。通訳の助けを借りながら、時計事業本部 事業企画センター長兼執行役員の矢島義久氏にはシチズンの歩みと多岐にわたる分野での成功、そしてグローバルな視野を持つ日本企業であることの意味について話を聞いた。また、シチズン?ウオッチ?アメリカの社長を長年にわたり務めてきたジェフリー?コーエン(Jeffrey Cohen)氏とも対談を行った。これらのインタビューはあまり長大にならないよう、わかりやすさを考慮して編集されている。
マーク?カウズラリッチ(以下、マーク): 過去100年間にわたってシチズンは計時技術のスペシャリストとして名を馳せてきました。その歴史の一端をこの会場で垣間見ることができます。しかしほかの多くの日本企業がさまざまな分野に進出しているように、シチズンもその技術を腕時計に限定せず広げています。たとえばシチズンファインデバイスはムーブメント部品から自動車部品までさまざまなものを手がけており、シチズン?システムズでは健康機器や小型プリンタなどの製品を製造しています。私たちが通常シチズンと聞いて見たり考えたりすることのない分野でどのような事業を展開しているのでしょう。また、時計に限らずこれらの製品にも事業として取り組む意図を教えてください。
マーク: 時計とは何か、どのようにあるべきかという狭い定義にとらわれず、柔軟な考えを持つことが重要なのですね。展示されている時計にはアナログとデジタルの組み合わせるにとどまらず、点字表示を備えた触覚時計のようにさらに1歩踏み込んだ発想を示すモデルも見られます。
ジェフリー?コーエン氏(シチズン?ウオッチ?アメリカ社長、以下コーエン氏): すでに何度も検討がなされており、実際に動き出しています。ニューヨークに新しくオープンするシチズンのフラッグシップストアの3階全体がシチズンのミュージアムになる予定で、一部はほかの自社ブランドにも割り当てられます。主な目的はこの展示を広く一般に公開し、シチズンが過去100年間にわたってどのような革新を続けてきたかをさまざまなカテゴリーやマテリアルを通じて見てもらうことです。私たちは、このスペースで多様な時計コレクターやコミュニティを招待するイベントを順次開催する予定でいます。
マーク: あなたがシチズンに在籍しているあいだに起こった、特に米国市場において最も大きな変化は何ですか?
コーエン氏: 素材から技術の進歩、ムーブメント技術に至るまで、メーカーとしてのイノベーションはまったく新しいレベルに達していると思います。たとえばエコ?ドライブですが、かつては最長6カ月のパワーリザーブを持つ時計だったのが、Cal.E365の開発によって1度のフル充電で最低1年間動力を維持できるようになりました。デュラテクト加工を施したスーパーチタニウムは、異なる種類のDLC仕上げを採用することで新たなステージに引き上げられています。さらに最近では機械式時計の分野でも非常に大きな関心が寄せられており、シチズンの機械式時計再興に対する研究が進んでいます。