機械式時計の奥深い世界では、手巻き式と自動巻き式のそれぞれが独自の魅力を持ち、多くの愛好家を魅了しています。しかし、実際に選ぶとなると迷ってしまう方も少なくありません。ここでは両者の特徴をわかりやすく解説し、ご自身に合った一本を見つけるためのヒントをご紹介します。
1 核心の違い:動力供給方式が時計の“性格”を決める
(一)手巻き式機械式時計
手巻き式は、使用者が定期的にリューズを回して主ゼンマイを巻き上げ、ムーブメントに動力を与える構造です。フル巻き上げ時のパワーリザーブは一般的に約40時間ですが、ロングパワーリザーブモデルでは7~10日間持続するものもあります。例えば40時間の駆動時間であれば、毎日または1日おきに巻き上げを行わないと時計は停止します。自動巻き機構(ローター)が搭載されていないため、ムーブメント構造はシンプルで、ケース厚も抑えられ、装着感は軽快です。
(二)自動巻き式機械式時計
自動巻き式は、腕の動きにより内蔵されたローターが回転し、巻き上げ機構を介して主ゼンマイに動力を伝えます。手巻き機能も備えており、フル巻き上げ時のパワーリザーブはおおむね40時間以上です。日常的に着用していれば、リューズによる手動巻きは不要です。長期間使用せずに止まってしまった場合は、手動で巻き上げるかワインディングマシンを使用することで再始動できます。
2 使用とメンテナンス:共通点と相違点を把握する
(一)共通のメンテナンスポイント
手巻き式?自動巻き式いずれの場合も、以下の点に注意して使用?保管を行ってください。
磁気:磁気帯びを避けるため、強磁場(大型スピーカー、冷蔵庫のドアマグネット等)には近づけないでください。
衝撃:ムーブメントの損傷を防ぐため、落下や強い衝撃を避けてください。
防水:防水性能(例:日常生活防水30m)を確認のうえ、仕様範囲外での使用(入浴?水泳など)は避けてください。防水パッキンの劣化にも注意し、定期点検を行うことをおすすめします。
腐食:ガソリン、洗剤、香水などの化学薬品との接触は避けてください。海水に触れた場合は真水で洗浄し、よく乾かしてください。
定期整備:3?5年ごとに、正規サービスセンターまたは信頼できる時計技術者によるオーバーホール(分解清掃?注油?部品交換)を受けることで、精度と耐久性を保てます。
(二)手巻き式の注意点
手巻き式時計は、毎日あるいは決まったタイミングでの巻き上げ習慣が大切です。例えば朝起きた直後など、生活の中でルーティン化すると管理しやすくなります。運動量が少ない日は、着用していてもゼンマイの巻き上げが不十分なことがあるため、補助的に手動で巻く必要があります。巻き上げる際は、リューズを1段引き出し、親指と人差し指で時計回りにやさしく回します。巻き抵抗が強くなったところで止め、20?30回を目安に巻いてください。無理に巻き続けるとゼンマイを損傷する恐れがあります。
(三)自動巻き式の注意点
自動巻き式は、歩行や軽い動作によって自動的にゼンマイが巻き上がります。もし時計が停止した場合は、リューズで20~30回ほど手巻きを行って初動トルクを与えたうえで、時刻や日付を設定してください(カレンダー早送り禁止時間帯にご注意ください)。長時間デスクワーク中心の方など、腕の動きが少ない場合は、毎日20回前後の手巻きで補助すると安心です。
3 選び方のポイント:自分のニーズに合わせるのがベスト
毎日の巻き上げを儀式のように楽しみたい方、スケルトン仕様の裏蓋からムーブメントの動きを鑑賞したい方、トゥールビヨンなどの高度な複雑機構に惹かれる方、そして時計を芸術品として丁寧に扱いたい方には、手巻き式機械式時計がおすすめです。
一方、利便性を重視し、“着けるだけで動作する”実用性を求める方、ゼンマイの巻き忘れによる停止を避けたい方、多忙な日々の中で管理の手間を減らしたい方には、自動巻き式機械式時計が適しています。
手巻きと自動巻きは、それぞれが機械式時計の魅力を構成する両輪です。動力供給方式やメンテナンスの違いを理解したうえで、生活スタイルや好みに合わせて選ぶことで、機械式時計の奥深い魅力をより一層楽しむことができます。手巻きの手応え、自動巻きの安心感。どちらを選んでも、正しい使い方と定期的なケアを忘れず、時計の“心臓”をいつまでも元気に保ちましょう。